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2019.11.01

労働災害について

近年、労働災害で死傷した方が企業を安全配慮義務違反として訴える事によって企業が巨額の賠償請求を受けるケースが相次いでいます。最近の例では電通の過労自殺や2011年の東日本大震災の避難指示の誤り等が記憶に新しいと思いますが、最近は外国人労働者の労災事故も大きな問題となっており、2018年に労働災害で死傷した外国人は2,847人と7年連続で過去最多を更新しています。働き方改革や健康経営、精神疾患やハラスメントのトラブル等が注目を集める中、労働災害の防止は企業にとって必須の課題になると考えられます。労働災害は業務に起因して発生するものと通勤に起因して発生するものがありますが、今回は業務に起因する労働災害について説明していきたいと思います。

まず、労働災害が発生した場合に企業が被るリスクについて整理したいと思います。労災事故が発生した場合、企業は大きく分けると、法的責任と社会的責任、その他の損害を被る可能性があります。法的責任としては、刑事責任、民事責任、行政責任等が発生し、刑事責任としては業務上過失致死傷罪及び労働安全衛生法違反があり、罰金や禁固刑を科せられる可能性もあるため、注意が必要です。民事上の責任としては、まず無過失責任として労働基準法に基づく災害補償責任があり、労働契約において災害補償規程等がある場合は労働契約責任が発生し、更に労働災害の発生に企業の安全配慮義務違反があった場合には民事上の使用者賠償責任を問われるケースがあります。行政責任としては、労働安全衛生法に基づき作業停止命令等の行政処分が下される可能性があります。社会的責任としては、使命停止や入札停止、取引停止等による収入減少や社員の採用難や退職増加等による人材難が考えられます。その他の損害としては、重要な人材の喪失やモチベーション低下に伴う生産性低下、車両や機械設備の破損等の不随費用の発生が想定されます。

労働災害についてはまずはその発生を防止する事が求められますが、労働安全衛生法で事業者に義務づけられている措置を実施すると共に自主的な活動を行う事が重要です

1)労働安全衛生法の順守

  • 危険防止の措置:危険物に身体が触れないように柵や覆い等を設ける措置等。
  • 健康管理の措置:従業員に年に1回の定期健康診断を実施するなどの措置等。
  • 安全衛生管理態勢の整備:安全衛生推進者等を任命し、安全衛生対策を進める等。
  • 安全衛生教育の実施:雇入れ時に安全衛生の教育等を行うこと等。

2)自主的な安全衛生活動

  • ヒヤリハット活動:作業中にヒヤリとした、ハッとしたが災害にはならなかったという事例を報告・提案する制度。
  • 危険予知活動:作業前に現場や作業に潜む危険要因について話し合い、危険に対する意識を高めて災害を防止する活動。
  • 安全当番制度:安全パトロールや安全ミーティングの進行役を全員に担当させる制度。

しかしながら、上記の様な取組を行っていても労働災害をゼロにする事は難しく、そのために保険を活用したファイナンス対策が必要となります。しかしながら、日本の企業は安全配慮義務違反を問われて巨額の損失に繋がる使用者賠償責任保険よりも、労働契約責任を果たすための上乗せ労災保険に加入している企業が多いという特徴があります。保険の優先順位としては、先ずは労働基準法上の災害補償責任を担保するための政府労災、次に安全配慮義務違反を問われた場合の使用者賠償責任保険、最後に労働契約責任を果たすための上乗せ労災の順番です。また、近年は労働災害に関するリスク以外にハラスメントに関する訴訟やトラブルが増加していることから、雇用慣行に関する賠償責任保険の必要性も高まってきています。人材不足倒産が増加する中で、労働者が快適・安全に働ける職場づくりを心掛ける事が優秀な人材の確保にも繋がるでしょう。

NPO法人 日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 副理事長
株式会社AIP 代表取締役 CEO 松本一成