人材不足リスクについて
東京商工リサーチによると、有効求人倍率が1.62倍と1973年以来、約45年ぶりの水準で推移する中、求人難や従業員の退職など人手不足を原因とする倒産が2019年1月~7月で227件となり、過去最高であった2018年の387件を上回る可能性が出て来ています。人手不足を原因とする倒産の中でも件数が一番多いのは代表者や幹部役員の死亡や引退を原因とする「後継者型」が134件ですが、増加率では中核社員の退職などの「従業員退職型」が2.2倍の25件、従業員の確保が困難となる「求人難」が2.1倍の51件となっており、人材不足は深刻さを増しています。中小企業が継続的に存続・発展していくために、人材の確保は必要不可欠であり、働き方改革への対応や健康経営への取組などを通して、人材の確保に努める必要があるでしょう。
優秀な人材を確保するための取組は企業によって様々ですが、資金にゆとりがある巨大企業と違い、中小企業の場合は簡単に処遇を上げる事も難しく、単に人が採用出来れば解決する問題でもありません。そういった人材不足を経営課題に持つ中小企業向けに「中小企業・小規模事業者人手不足ガイドライン」が中小企業庁より出されており、人材不足に対応する3つのステップが示されているため、ご紹介したいと思います。
ステップ1:経営課題や業務を見つめ直す
経営者が経営課題として深刻化する人手不足を変革・成長のための機会と捉え直す事で、以下のような変革が進む可能性があります。
①退職・離職による人手不足についてはその原因の改善や事業規模の縮小、事業拡張や新事業による人手不足の場合は人事戦略の見直しを行う事で対応する。
②業務を細分化して短時間勤務の採用を可能にしたり、作業工程を分ける事で技術力への依存度を低下させたり、重労働と軽作業を分ける事で女性や高齢者に対象を広げる。
ステップ2:業務に対する生産性や求人像を見つめ直す
下記のようなIT導入や設備導入、人材育成等により労働生産性を向上させる事で人材不足に対応する事が可能となります。
①業務の段取りやレイアウトの変更、アウトソースの活用等のソフトアプローチとITやロボット等の設備を導入するハードアプローチ等で生産性を高め、人手不足に対応する
②固定概念を払拭し、人員異動による別の求人への置き換え、定着率が高い主婦層やシニア層に目を向けた対応、専門性を有する求人から採用後の人材育成によって専門性の付与等を行う事で対象を拡大する。
ステップ3:働き手の目線に立って、人材募集や職場環境を見つめ直す
女性・高齢者、外国人等の多様な人材に視野を広げ、働き手の立場に立った人材募集や職場環境整備等を進める事で人材を確保する。(掘り起こす)
①従業員のライフスタイルを訴える事でターゲット層に対するメッセージ性を強めたり、採用体制や手法(インターンシップや会社見学会等)を見直したり、働き手から見た自社の特徴・魅力を伝える事によって人材採用を推進する。
②女性向けに育児との両立が可能な柔軟な勤務体系の導入、高齢者向けに身体負荷への配慮や無理の無いシフト、外国人向けに日本文化や日本語、生活面のサポート体制を導入する事で人材を確保する。
また、人材の採用と離職率の低下の為に、健康経営の推進や福利厚生の充実に取り組んでいる企業も数多く見られます。その中で最近注目されているのがGLTD(団体長期傷害所得補償保険)の活用です。GLTDは役員・社員の方々が万が一の傷病により長期間仕事が出来ない状態となった場合に、その方の収入の一定割合を補償する、企業が契約者となる保険制度であり、「就労環境の整備」「リスク対策」といった目的のみならず、優秀な人材の確保や競合他社との差別化、ブランドイメージ向上といった「経営戦略」の一環としても広く活用されています。特に健康経営を目指す企業はこの制度の導入によって「病気の治療と仕事の両立支援」を積極的に行っていますので、是非検討してみては如何でしょうか?
NPO法人 日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 副理事長
株式会社AIP 代表取締役 CEO 松本一成