2019.06.01
知的財産権の侵害リスクについて
従来の企業リスクは建物や車、設備や人材という目に見える資産に関するリスクが中心でしたが、近年はビジネスのIT化やグローバル化に伴い、情報や知的財産等の目に見えない資産を守ることが非常に重要になってきています。特に知的財産権は近年の企業の差別化要素としての価値が高まっており、それによって知的財産の侵害に関するリスクも高まっています。今年度より勃発している米中貿易戦争においてもアメリカは中国による知的財産権の侵害を理由に制裁を科していますし、スマートフォン等の意匠やIT技術に関わる高額な訴訟事件等も数多く発生しています。
知的財産権とは?
知的財産権とは、知的財産基本法において「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの、商標、商号その他の事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」と定義されており、産業財産権と著作権に大別され、以下のようなものが含まれます。
①産業財産権
- 特許権:新規な発明をした者に与えられる独占権
- 実用新案権:物の形状、構造、組み合わせに関する考案に与えられる独占権
- 意匠権:物のデザインの独占権
- 商標権:自社の商品と他社の商品を区別する為の文字・図形・記号・色彩等の独占権
②著作権
- 著作財産権:思想・感情の創作的表現の保護
- 著作者人格権:著作者の公表権、氏名表示権、同一性保持権の保護
知的財産権侵害のリスク
知的財産権を侵害した場合、以下のような損失の発生が想定されます。
- 損害賠償請求:侵害者の故意または過失による侵害であり、著作権者に実害が発生している場合は、大きく2種類の損害賠償を請求される可能性があります。
①積極的損害:著作権の侵害が無ければ支出する必要が無かった費用
②消極的損害:著作権の侵害が無ければ得られるはずであった利益 - 差止請求:行為の停止等が請求されるため、製品やサービスの販売停止による売上減少や製品の回収費用が発生する可能性があります。
- 名誉回復などの措置請求:侵害行為により名誉や名声を害された場合、それらを回復するために必要な措置を請求されます。
また、上記に不随して、訴訟費用や弁護士費用のみならず、リスク管理体制の整備を問われて株主代表訴訟に繋がったり、ブランド下落といった損失に派生する可能性があります。
さらに、刑事上においても懲役や罰金を科せられる可能性がありますし、逆に著作権侵害をされた場合には不当に売上が阻害されたり、風評被害を受ける可能性があるので、注意が必要です。
知的財産権侵害のリスク対策
加害者となり、巨額の損失を被らないためにも、以下のような対策を施す事が重要です。
- 調査の徹底
既に登録されている特許や商標などについて、事前に十分に調査を行い、多重チェックを行う社内体制を整備する事が必要です。インターネット上(特許情報プラットフォーム等)で過去の産業財産権を検索することも可能です。 - 社内教育の徹底
知的財産権が身近にあるリスクである事を認識し、部門・役職に応じたレベルの正しい知識を習得する事で、一人ひとりが適切な対応をする事が必要です。 - 専門家の活用
複雑で、似たような技術等の専門的な調査を行う場合には、弁理士に相談し、仮に知的財産の侵害を訴えられた場合には弁護士に相談する事で適切な対応を行う事が重要です。 - 保険の活用
最後の手段として、知的財産権侵害(著作権侵害は対象外となる場合があります。)で発生した費用(賠償金は除く)の一部を保険によって補填する事も可能です。特に海外での知財係争については非常にリスクが高く、国(特許庁)から1/2の保険料補助等もありますので、検討する事をお勧め致します。