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2019.12.01

株主代表訴訟

2019年12月4日(水)、会社法の一部を改正する法律(会社法改正法)が参議院本会議で可決され、成立しました。主な内容としては、①株主総会資料の電子提供、②株主提案権(株主提案を1人10件までに制限)、③取締役の報酬等(取締役の報酬の透明性の確保)、④補償契約(会社補償)・役員等賠償責任保険契約(D&O保険)に関する規律の整備、⑤社外取締役の設置義務(上場企業が対象)、⑥業務執行の社外取締役への委託、⑦社債の管理に関する規律の見直し、⑧株式交付制度の創設(自社株式等を対価とするTOB等)となっており、株主総会や組織再編の効率的・効果的な運営と企業統治(コーポレートガバナンス)の強化に力点が置かれる一方で、会社補償やD&O保険を活用して取締役を守る方向性が示されています。社外取締役の設置等については、既に上場企業の98.4%が導入済みですが、実際には機能不全が多く、不祥事を起こしたかんぽ生命の取締役会の中に社外取締役が過半数を占めていた実態からも、今後は形式的ではなく、実効性のあるガバナンス態勢の構築が求められるでしょう。

会社法の改正に伴い、取締役の責任が更に強く問われると考えられますが、取締役が負っている責任は大きく「第三者に対する責任」と「会社に対する責任」に分けられます。第三者に対する責任は、会社役員の不適切な業務執行により第三者(取引先、株主、従業員、競合他社等)に損害が発生した場合に民法上の一般の不法行為責任や会社法上の特別責任に基づいて発生する損害賠償責任であり、責任が果たせない場合は第三者訴訟が提起される可能性があります。会社に対する責任は、取締役が会社との委任関係の中で負っている義務に違反し、会社に損害を与えた場合に会社に対して賠償責任を負うものであり、義務には「善管注意義務」「忠実義務」「競合避止義務」「利益相反回避義務」「監視・監督義務」等があります。これらの責任が果たせない場合、本来は会社が取締役に賠償請求すべきですが、会社が賠償請求をしない場合は、株主が会社に代わって賠償請求をする「株主代表訴訟」の形態を取るのが一般的です。今回の法改正は取締役にこれらの責任を果たす事をより強く求める意味合いもあると言えるでしょう。

この株主代表訴訟は、株主にとっては経営者が適正・適切に会社経営を行うように監視するコーポレートガバナンスの有力な手段になりますが、この制度が過度に運用されると、経営者が委縮し、健全な会社運営が害される危険があります。取締役は自身が負う経営責任を果たす為に、取締役に求められる内部統制システム構築義務を果たし、形式的ではなく、実効性のあるコンプライアンス体制やリスクマネジメント体制を確立し、役員自身が業務執行について法令違反や善管注意義務違反がないかのリーガルチェックを行うと共に、取締役会・監査役会の適正な運営を通して相互の業務執行を適切に監視・監督する事が求められます。しかしながら、取締役がそのリスクを負う事を躊躇する事や社外取締役が就任を拒む事があっては健全な経営は出来ません。そのため、今回の改正では役員が株主代表訴訟等で訴えられたとき、会社が弁護士費用や賠償金を補償したり、会社役員賠償責任保険(D&O)に加入する為に必要な手続規定等を新たに設ける事になりました。株主代表訴訟は大企業ばかりではなく、中小企業でも沢山起きており、規模に関わらず経営責任が厳しく問われる中で、今後はこのD&O保険は会社や取締役を守る為にも、優秀な人材を取締役に任命し、健全な経営にチャレンジする為にも必要不可欠な保険になってくると考えられます。

NPO法人 日本リスクマネジャー&コンサルタント協会 副理事長
株式会社AIP 代表取締役 CEO 松本一成